大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)9276号 判決 1992年11月09日
主文
一 被告国は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告国に対するその余の請求を棄却する。
三 原告の被告甲野太郎に対する請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた費用の二〇分の三と被告国に生じた費用の一〇分の三を被告国の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告甲野太郎に生じた費用を原告の負担とする。
理由
一 当事者
請求原因1の(一)及び(二)の事実は、原告と被告国との間では争いがなく、被告甲野との間では、《証拠略》により認められる。
二 事実の経過
請求原因2(二)(1)の事実のうち、原告が奈良西警察署を訪れて、被疑者乙山との接見を希望したこと、原告が被告甲野と電話で交渉したが被告甲野は原告の接見を認めなかつたこと、被告甲野が右電話交渉において、原告に対し接見資格の有無を尋ねたこと、原告が留置主任者に対し持参していた書物及びトレーニングウエアの差し入れを申し出たこと、留置主任者が被告甲野に電話で差し入れの可否を尋ねたところ、被告甲野がトレーニングウエア以外の物の差し入れを拒否したこと、同2(二)(2)の事実のうち、被疑者乙山が原告の接見申込み時には取調べを受けていたこと、午前一一時九分ころには留置監に戻つて来たこと、同2(三)(1)の事実のうち、原告が、奈良警察署に赴き、午後四時一五分ころ、関係長に対し、被疑者丙川との接見及び弁護人選任届用紙等の差し入れを要求したこと、被疑者丙川についても、検察官から一般的指定書が出ていたこと、原告が被告甲野と電話で交渉し、被疑者乙山の件については既に準抗告に及んだ旨を述べたこと、被告甲野が原告の接見及び弁護人選任届用紙等の差し入れの要求を拒絶したこと、同2(三)(2)の事実、同2(四)の事実のうち、原告が、一一日、被疑者乙山との接見拒否並びに被疑者丙川との接見拒否及び書類、物の授受の拒否について、これを取り消すことを求めて奈良地方裁判所に準抗告の申立てを行い、一四日、右各申立てが認められ検察官の接見等を拒否する処分を取り消す旨の決定がなされたこと、原告が、一五日午後四時二〇分ころ、奈良警察署に赴き、関係長に対し被疑者丙川との接見及び弁護人選任届用紙等の差し入れを要求したところ、関係長が直ちに被告甲野と連絡を取つたこと、被告甲野が取調べ中であることを理由に接見を拒否しようとしたこと、被告甲野が、関係長から被疑者丙川が帰房したことを告げられ原告に対し被疑者丙川との接見を指定したが、書類等の授受に関しては裁判所の接見等禁止一部解除の決定を取らない限り差し入れを認めないとしてこれを拒否したこと、原告が被疑者丙川との接見終了後、関係長に対し弁護人選任届の作成を依頼し、関係長が再び検察庁に連絡して弁護人選任届用紙の差し入れの希望を被告甲野に告げたこと、被告甲野が、裁判所の接見等禁止の一部解除の決定を取るように述べて弁護人選任届用紙の授受を禁止したこと、原告が、奈良地方裁判所に対し、右弁護人選任届用紙の授受を拒否する処分の取消しを求める準抗告を申し立てたこと、奈良地方裁判所が、翌一七日、右準抗告の申立てを認める決定をしたことはいずれも原告と被告国との間に争いがない。
以上争いのない事実に、《証拠略》を総合すると(被告甲野との関係においては前記争いのない事実を除き総合判断する。)、以下の事実を認めることができ(る。)
《証拠判断略》
1 接見等禁止決定及び一般的指定
奈良地方検察庁検察官は、被疑者両名の身柄を受理するとともに、七日、奈良地方裁判所裁判官に被疑者両名の勾留と併せて接見禁止の請求をし、これが認められた。そして、被告甲野が被疑者両名に関する本件被疑事件について担当することとなつた。被告甲野は、具体的に捜査状況によつては弁護人との接見につき日時等を指定する必要が生じる場合もあると考え、被疑者両名が勾留されている各監獄の長に対し、「捜査のため必要があるので、右の者と、弁護人又は選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する。」との内容の書面(いわゆる一般的指定書)で連絡通知した。なお、奈良警察署も奈良西警察署も、奈良地方検察庁と同じ奈良市内にあり、より遠い奈良西警察署から奈良地方検察庁までタクシーで一〇分強程度の距離である。
2 被疑者両名から原告への弁護の依頼
(一) 被疑者両名の所属するグループにおいては、かねてより、グループの構成員が逮捕されたときには、塚本弁護士に弁護を依頼し、塚本弁護士が多忙の場合には、小杉が電話等により他の弁護士に弁護を依頼することになつていた。そして、被疑者両名が、本件被疑事件の容疑で逮捕され、かねてからの打合せに従い各警察署の留置係官を通じて塚本弁護士に弁護を依頼したところ、原告は、一〇日、塚本弁護士の依頼を受けた小杉から、被疑者両名の本件被疑事件に関する弁護を依頼された。
(二) なお、一一日から一五日の間においては、小坂井弁護士及び萩原弁護士が被疑者丙川に接見のうえ萩原弁護士については弁護人選任届の作成を行い(ただし、同届の捜査機関への提出は未了)、また、小坂井弁護士が被疑者乙山に接見をしていた。
3 一一日の奈良西警察署での接見拒否及び物の授受の拒絶
(一)(1) 原告は、右依頼を受けて、翌一一日午前一一時ころ、奈良西警察署に赴き、同警察署の留置主任者に対し、被疑者乙山との接見を求めた。同主任者が、被疑者乙山について検察官から接見に関する一般的指定書が出されており、具体的指定書がないと接見させられないことを告げた。そこで原告は、同留置主任に対し、一般的指定がなされているのを知らなかつたため具体的指定書を持参していないので検察官と連絡を取つてほしいと述べた。同留置主任は、奈良地方検察庁に電話をかけて被疑者両名の担当検察官である被告甲野を電話口に呼び出し、原告が被疑者乙山との接見のため奈良西警察署に来て接見を申し出ていることを連絡したうえで、原告に対し、後は接見交渉をしてほしいと述べて受話器を渡した。
原告は、被告甲野に対し、一般的指定がなされているのを知らなかつたこと、既に警察に来てしまつており直ちに接見したいことを述べ、現在捜査の必要があるのかを尋ねた。これに対して、被告甲野は、本件被疑事件については刑訴法三九条三項により一般的指定をしており、検察官の発行する具体的指定書によつて接見してほしいので奈良地方検察庁まで具体的指定書を取りに来てもらいたい旨を回答した。原告は、奈良地方裁判所では数年前に一般的指定は違法である旨の準抗告の決定の先例があり、その後変更されたと聞いていないこと、捜査の具体的必要がなければ拒否する理由がないこと、検察庁に指定書を取りに行くのは時間のロスであり検察庁と警察の間で他の方法で指定すれば足りることなどを述べて説得を試みたが、被告甲野は、被疑者乙山についての取調べ又は確実な取調べ予定等の事情の有無を調査することなく、本件に関しては具体的指定書によつて接見してもらいたい旨を述べた。右電話の途中、被告甲野は、原告に対し、いかなる資格で接見を希望するのかを尋ねたところ、原告は、被疑者の依頼により弁護人となろうとする者であると答えた。これに対し、被告甲野は、右資格を疎明すること及び右疎明のために原告が検察庁を訪れることを求めたが、原告は、この申出を拒否した。この問題はそれ以上発展せず、その後は、再び具体的指定書の必要性についてのみ問答がなされ、結局、原告と被告甲野の話合いは決裂し、原告は接見を拒否された。
なお、原告は、右電話の最中に、隣の部屋又は廊下辺りから、「もう取調べが終わつているのにどうして房に帰さないんだ」という女性の声を聞き、その後、原告の横を引つ張られ女性が房に入つて行つたのを見たが、後に原告に同行して廊下で待つていた小杉から同女が被疑者乙山であることを知らされた。
さらに、右電話交渉が終わつた後、原告は、書物及びトレーニングウエアを差し入れたい旨申し出たが、右留置主任が、被告甲野に電話で差し入れの可否を尋ねたところ、一般的指定をしているので、書物及び物の授受も具体的指定書によつてほしい、検察庁に持つて来てもらつて中身を見ないと指定できないとのことだつた。原告が右持参の要請を拒否したため、被告甲野は、トレーニングウエアの差し入れを認めたのみで、その余の書籍等の授受を拒否した。
(2) 同日の被疑者乙山の取調べは、午前九時二五分ころから、右電話途中の午前一一時九分ころまで行われ、その後には、午後三時四〇分ころから五時一七分ころまで行われたのみであつた。
(3) 原告は、同日、奈良県の八木にある内橋裕和弁護士の事務所で、被告甲野の右接見拒否に対する準抗告申立書を作成し、小杉をして同申立書を奈良地方裁判所に提出させた。
(二) 接見申出時間及び接見等の拒否理由に関する事実認定の補足説明
(1) 被告国は、「原告の右接見申出は午前一一時ころではなく、午前一〇時ころである」旨主張し、奈良弁護士会人権擁護委員会に提出された原告作成の陳述書及び奈良弁護士会から被告甲野に対して送られた警告書には「右申出が午前一〇時であつた」旨記載されている。しかし、原告と被告甲野の電話交渉の直後に原告により作成された準抗告申立書及び報告書には、原告が午前一一時ころ奈良西警察署に赴いた旨記載されており、また、原告本人はその本人尋問において、「私が検事と交渉している最中に、隣の部屋かあるいは廊下辺りから女性の声が聞こえまして、抗議口調でですね、もう取調べが終わつているのにどうして房に帰さないんだと大声で怒鳴つておつたわけです。で、私はそのときは余り気にとめなかつたんですが、後からその女性が、私の横を引つ張つて行かれて、房の中に入つて行きました。で、後からそれが乙山さんだつたということを小杉君から聞きまして、ですから、ちょうど私が接見申出をしている最中に、彼女は取調べから帰つて来て、房の中に入つて行つたわけです。」「帯同しておりました小杉君は外の廊下で待つておりました。で、電話の合間に私は外へ出て、小杉君と少し話をしたんです。そのときに小杉君から聞きました。今行つたのが乙山だというふうに聞きました。」等と供述しており、右供述は、具体的であり、かつ、内容にも不自然な点は見い出せず、特に右供述を疑わしめる事情も窺えないから、信用するに足りるものと考えられる。右事実と被疑者乙山が一一日午前中に留置場に戻つた時間が午前一一時九分であること(調査嘱託の結果)を総合すると、原告の右接見申出は午前一一時ころであると認められ、被告の右主張は失当というほかない。
(2) また、被告国は、「被告甲野が原告の右接見の申出を拒否したのは、原告が『弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者』であることを疎明しなかつたからである」と主張し、被告甲野本人も右主張に沿う供述をしている。
しかし、原告本人は、右電話交渉における議論の中心は専ら具体的指定書持参の要求の可否にあつた旨を供述していること、右交渉の直後に作成された準抗告申立書及び同申立書添付の報告書にも接見資格が問題とされた事実は記載されていないこと、右接見拒否に対してなされた準抗告申立てに対する検察側の意見書には、一般的指定及び具体的指定書の持参要求に関する問題点は記載されているけれども、原告の接見資格について問題視した形跡は窺うことができないこと(被告甲野は、その本人尋問において、当時は他の被疑者及び公判の担当のため多忙であつたため、準抗告に関しては当時の奈良地方検察庁の次席検事に依頼しており、右意見書は右次席検事に作成してもらつたもので、その際の連絡が不十分であつたために右のような記載内容になつてしまつたと供述しているが、右意見書においては原告と被告甲野との交渉過程がある程度具体的に記されていることから、被告甲野は右次席検事に対し相応の具体的説明はしていたものと考えられ、そうであるならば、被告甲野が最も重要視していた点についてはいかに多忙とはいえ何らかの説明があつてしかるべきであり、その点について意見書に何も記載されなかつたというのは不自然であり、被告甲野の右供述は採用できない)等の事情に照らすと、右電話交渉における、当事者間の議論の中心は、専ら具体的指定書持参の要求の可否にあつたと認められ、被告の右主張は失当というほかない。
(3) さらに、被告国は、原告から被疑者乙山への差し入れにつきトレーニングウエア以外の物の授受を認めなかつた理由として、「被告甲野は、原告の接見資格の疎明が得られず一般人の差し入れとして扱つたため、トレーニングウエアについては裁判官の接見等禁止決定の例外規定に該当すると認めたが、書物については例外規定に該当するか否かを審査するため現物を確認したいと原告に申し入れたのに対し、原告がこれを拒絶したため物の授受を認めなかつた」旨主張し、被告甲野もこれに沿う供述をしている。しかしながら、前記(2)説示のように、原告と被告甲野との電話交渉において原告の接見資格の問題は中心的なものでなく、被告甲野が最後まで右問題にこだわつていたとはいえないから、被告甲野が原告の差し入れを一般人のものと同様に考えて判断したとの右供述はたやすく信用することができない。
4 一一日の奈良警察署での接見拒否及び物の授受の拒絶
(一)(1) 原告は、同日午後四時一五分ころ、奈良警察署に赴き、関係長に対し、被疑者丙川との接見及び書類等(弁護人選任届用紙三枚、名刺一枚並びに被疑者乙山との接見の拒否について作成した準抗告の申立書の写し及び同申立書添付の報告書の写し)の差し入れを要求した。
ところが、被疑者丙川についても検察官から一般的指定書が出ていたために、原告は、再び被告甲野と電話で交渉をし、被疑者乙山の件については既に準抗告を申し立てた旨を伝えたうえ、被疑者丙川との接見を求めた。しかし、被告甲野は、同女についての取調べ又は確実な取調べ予定等の事情の有無を何ら調査せずに、奈良地方検察庁まで具体的指定書を受け取りに来るよう要求するのみであり、原告がこれを拒むと右申出を拒絶した。さらに、原告は、右差入物件の標目を読み上げて差し入れを求めたが、被告甲野は、奈良地方検察庁へ右の物を持参して被告甲野に見せるよう要求し、原告がこれを拒むと右差し入れを拒否した。なお、右交渉の過程において、被告甲野は、原告の接見資格を問題にする発言は一切しなかつた。
(2) 同日の被疑者丙川の午後の取調べは、午後一時五七分ころから午後四時三七分ころまで行われたのみであつた。
(3) そこで、原告は再び準抗告申立書を作成し、右接見拒否及び物の授受の拒否に対し、奈良地方裁判所に準抗告の申立てを行つた。
(二) 接見等の拒否理由に関する事実認定の補足説明
被告国は、「右被疑者丙川との接見及び差し入れ申出の交渉においても原告の接見資格の問題のため接見等を認めることができなかつた」と主張し、被告甲野本人もこれに沿う供述をしている。しかし、前記説示のように被疑者乙山との接見の交渉においては具体的指定書持参要求の問題点が中心であつたと認められること、被疑者丙川との接見等拒否に対する準抗告申立てへの検察側意見書にも原告の接見資格に関する主張が一切記載されていないこと、原告本人は、右交渉において接見資格の問題は出て来なかつた旨を供述しており、右接見等拒否の直後に作成された準抗告申立書及び同申立書添付の報告書にも接見資格が問題となつた事実は記されていないこと等に照らし被告甲野の右供述は採用することができない。
5 一五日の物の授受の拒絶
(一)(1) 奈良地方裁判所は、一四日、原告の右各申立てにつきいずれも理由があるものと認め、被疑者両名に対する被告甲野の接見拒否等の各処分を取り消す旨の決定をした。
原告は、一五日午後四時ころ奈良地方裁判所で右決定書を受け取り、同日午後四時二〇分ころ、奈良警察署に赴き、関係長に対し、被疑者丙川との接見と書物等(弁護人選任届出用紙三枚、名刺一枚、その他本数冊)の差し入れを要求した。関係長は、被告甲野に連絡が取れなかつたため、原告に対し少し待つてもらうよう要請した。そして、午後五時少し前に被告甲野に連絡が取れ、原告は、被告甲野と電話で右接見及び物の授受を要求した。これに対して、被告甲野は、接見は警察の執務時間内に行つてほしいこと、一四日に大阪弁護士会の萩原弁護士に時間外の接見を認めたので弁護士間で調整して欲しいことを述べ、被疑者乙山については接見指定をするが、被疑者丙川については接見を拒否すると答えた。原告は、萩原弁護士とは面識がないので同人のことを言われても困ること、起訴前の弁護活動には主任の制度がないので調整の義務がないこと、一一日の接見拒否の被告甲野のかたくなな態度のことなどについて話をして被疑者丙川についての接見指定を求めた。しかし、被告甲野は、右要求を拒否したうえ、一旦電話を関係長に替わつて被疑者丙川の取調べ状況を聞いたところ、関係長が現在取調べ中であると答えたので、被告甲野は再び原告と電話で話し、取調べ中なので接見させられないと述べた。原告は、一一日には執務時間中に接見を求めたのに対して、現に取調べ中でもなく接見を妨げる何らの理由もないのにこれを違法に拒否され、準抗告のやむなきに至つたこと、これによつて既に被疑者の防御に支障を来していること、警察は被疑者に対して毎日朝から晩まで取調べをしているのだから、単に取調べ中であるからと拒否されたら接見する時間がなくなることなどを述べて説得した。その間、関係長が、内線電話で問い合わせ、被疑者丙川は取調べを終了して食事のため房に帰つて来たことを確認し、その旨を被告甲野に告げたので、被告甲野は、被疑者丙川との接見を指定した。しかし、被告甲野は、書類、物の授受に関しては裁判所の接見等禁止の一部解除の決定を得なければ差し入れを認めないと述べ、原告が、弁護人となろうとするものである原告の差し入れは裁判所の接見禁止とは関係ないことを述べて説得しようとしたにもかかわらず、これを拒否した。
原告は、とりあえず被疑者丙川と接見したが、その際、被疑者丙川が、原告を弁護人に選任したい旨述べたので、接見終了後、関係長に対し弁護人選任届の作成を依頼したところ、関係長は、自分の判断ではできないと答え、再び検察庁に連絡し、原告の右依頼を被告甲野に告げた。そして、弁護人選任届の用紙を差し入れて被疑者に署名指印させたうえで再び宅下げをするという作成手続を説明していたが、被告甲野は、裁判所の接見等禁止の一部解除の決定を取るよう関係長を通じて原告に伝え、弁護人選任届用紙の授受を禁止した。
(2) 同日の被疑者丙川の午後の取調べは、午後一時四〇分ころから午後三時四五分ころまで及び午後五時四二分ころから午後七時三五分ころまでであった。
(3) 原告は、同日、奈良地方裁判所に対し、右書類等の授受を拒否する処分の取消しを求める準抗告を申し立て、翌一六日に奈良地方裁判所に赴き、午前中には、被疑者両名の勾留延長担当の裁判官と面接し、昼ころには右準抗告担当の村田晃裁判官に面接し事情を説明した。そこで、同裁判官が、被告甲野に電話で連絡した結果、原告は、弁護人選任届作成の了解及びそのための被疑者両名についてのそれぞれ一〇分程の接見指定を得たので、奈良警察署及び奈良西警察署に赴き、被疑者両名とそれぞれ接見のうえ、弁護人選任届を作成した。なお、被告甲野は、弁護人選任届用紙以外の差し入れを拒否したので、原告は準抗告申立てを維持し、翌一七日、右申立てを認める奈良地方裁判所の決定がなされた。
(二) 物の授受の拒否理由に関する事実認定の補足説明
被告国は、「被告甲野が一五日の原告の書物等の差し入れを認めなかつたのは、一四日の奈良地方裁判所決定を一般人に対する接見等禁止決定の一部解除と解釈し、かつ、右決定には書類及び物の特定がなかつたことから原告の右差し入れ物件については裁判所の接見等禁止決定の一部解除が必要であると考えたこと及び弁護人選任届用紙の差し入れについては接見の場で弁護人選任届の作成が可能であり、右届用紙の差し入れを希望するのは、原告が被疑者丙川から弁護人に選任されなかつたためだと判断したことによるものである」旨主張し、被告甲野本人もこれに沿う供述をしている。
しかし、奈良地方裁判所の右各決定では、明らかに原告を被疑者の依頼により弁護人となろうとする者として扱つており、これを素直に読めば一般人に対する接見等禁止の一部解除とは到底解し得ないこと、被疑者丙川に対する書類、物の授受の拒否の取消決定についても、同決定添付の準抗告申立書によれば少なくとも弁護人選任届用紙及び原告の名刺を特定のうえ物の授受の拒否処分を取り消しているということが容易に読み取れること、被告甲野は右解釈内容について原告等には一切告げておらず、内心で考えていたに過ぎないことを供述で認めていること及び前記のように一一日の原告に対する接見等の拒否は接見資格の問題が中心的な理由ではなかつたと認められること等に照らすと、被告主張に沿う被告甲野本人の前記供述部分はたやすく信用できないし(もし、仮に奈良地方裁判所の右各決定を一般人の接見等禁止決定の一部解除と読み替えていたとするならば、裁判所の決定内容についての不当な曲解をなしていたものとしかいいようがない)、また、弁護人選任届用紙の差し入れについても、原告本人は、「関係長が、被告甲野に対し電話で、被疑者に弁護人選任届用紙を差し入れて署名指印をさせ宅下げをするという手続を説明していた」と供述しており、右供述部分はその内容において具体的であり、かつ、被告甲野本人も、「弁護人選任届作成の手続が原告本人供述のとおりであることを関係長から聞いた」旨供述していること(なお、被告甲野は、関係長から右手続を聞き、原告が弁護人選任届用紙の差し入れを希望した理由を誤解していたことに気が付き、一六日に原告の弁護士事務所に電話を入れて原告か事務所の人かに謝つた記憶があると供述しているが、《証拠略》によれば、一六日には原告は事務所にはおらず、かつ、事務所にかかつて来た電話は事務所の電話連絡帳に記載されているところ、右電話連絡帳の一六日欄には被告甲野から電話があつた痕跡は残されていないので、右供述はにわかに信用できない)に照らすと、前記被告の主張に沿う被告甲野本人の供述はたやすく採用することができない。
三 違法性及び過失
1 原告の接見資格及びその疎明
刑訴法三九条一項所定の「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とは、同法三〇条一、二項所定の弁護人選任権を有する者から当該被疑事件について弁護の依頼を受け、弁護人選任届書の捜査機関又は裁判所への提出若しくは口頭による届出等を行つていない者をいうと解される。そして、前記二2(一)で認定したとおり、原告は、被疑者両名から本件被疑事件の弁護の依頼を受けた塚本弁護士を介して弁護の依頼を受けたものであるから(しかも、従前からの取決めからすると、被疑者両名の意思は、塚本弁護士の委任する者を弁護人とするものでも可とする趣旨であることは明らかである。)、被疑者本人の依頼により弁護人になろうとする者に当たるというべきである。
なお、被告国は、被告甲野が一一日の原告の接見等の申出を認めなかつた理由は原告が接見資格を疎明しなかつたことにあり、右疎明の拒否を根拠に被疑者との接見を拒絶できるものと主張するが、前記二3(一)及び(二)(2)、同4(一)及び(二)で認定したとおり、被告甲野が原告の接見等の拒否をした理由は、原告が奈良地方検察庁に具体的指定書を取りに来なかつた点にあると認められるから、被告国の右主張は、その前提を欠くものというほかなく、採用することができない。
2 接見指定要件
(一) 刑訴法三九条一項の弁護人の接見交通権は、憲法三四条の趣旨にのつとり保障された弁護人の最も重要な固有権であり、右権利を容易に制限することは許されないものである。したがつて、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があつた場合は、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置をとるべきであり(最高裁判所昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁参照)、そして、右にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があつて、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解するのが相当である。
右のように、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは捜査機関の現在の取調べ等の進行に支障が生じたり又は間近い時に確実に予定している取調べ等の開始が妨げられるおそれがあることが判明した場合には、捜査機関は直ちに接見等を認めることなく、弁護人等と協議のうえ、右取調べ等の終了予定後における接見等の日時等を指定することができるのであるが、その場合でも、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができ、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるように配慮すべきである。そのため、弁護人等から接見等の申出を受けた捜査機関は、直ちに、当該被疑者について申出時において現に実施している取調べ等の状況を確認して具体的指定要件の存否を判断し、右合理的な接見等の時間との関連で、弁護人等の申出の日時等を認めることができないときは、改めて接見等の日時等を指定してこれを弁護人等に告知する義務があるというべきである(最高裁判所平成三年五月一〇日第三小法廷判決・民集四五巻五号九一九頁参照)。
なお、右のような解釈は、決して取調べ等の捜査権が接見交通権に優位すると考えるものではなく、取調べと接見交通権の調整においては、接見交通権の重要な意義を無に帰することのないよう、弁護人等の都合等も十分に斟酌し、可能な限り早い時間に十分な接見を認めなければならないとするものであり、取調べ予定の確実性や開始予定時間の切迫性を厳格に判断するとともに、事情によつては取調べ開始時間の若干の延期や現に行われている取調べの中断をも要請されるものである。
(二) これに対し、原告は、接見指定要件を右のように解するとするならば、憲法三四条、三八条一項、B規約一四条三項b及び被拘禁者保護原則一八条二項、三項に反することになり、刑訴法三九条三項を無効とするほかなくなる旨主張する。
確かに、弁護人等の接見交通権は憲法に由来する重要な権利ではあるが、それ自体絶対無制約なものではなく、一方で、捜査機関の捜査権限も憲法上否定されているものでないことは明らかであり、また、憲法は捜査の一形態として被疑者の取調べを当然に予定しているものといえる(憲法三八条参照)。したがつて、前記(一)のように、弁護人等の接見交通を弁護人等の希望する日時等にそのまま認めることにより取調べ等の捜査の中断による支障が顕著である場合に限り例外的に必要最小限度の制限が肯定されると解することは、必ずしも憲法の趣旨に反しないものである。これは、国内において法律以上の効力を有するB規約一四条三項における解釈においても同様と考えられる。なお被拘禁者保護原則は、条約ではなく、また、憲法九八条二項にいう確立された国際法規と認めることもできないから、政府が、国際法上その規定内容の実現に向けての努力を要請される趣旨にとどまるものであり、立法政策における一つの目安とすることはともかく、当該規定に反する国内法を直接無効にするような法的効力は有しないものというべきである。
(三) なお、原告は、「一般的指定処分が違法である」旨主張するので、検討を加えるに、一般的指定が、弁護人等に対して、右の接見指定要件の有無にかかわらず接見等に際しての具体的指定書の持参を要求するものであれば、右一般的指定は接見指定要件がない場合にも接見指定を得なければならないとするものであり、元来自由になし得るはずの接見交通権の行使を一般的に捜査官の許可にかからしめることになり、その運内自体を違法と解するしかない。しかしながら、具体的な接見指定要件の有無を確認したうえで、取調べ中等の接見指定要件が認められる場合には具体的指定を行うという趣旨を通知したものであるとすると、権限を有する捜査官が、監獄の長に対して、弁護人等から接見の申出があつた場合に、接見等の日時等の指定につき右捜査官に指示を受けるようあらかじめ連絡しているという内部通知に過ぎないと解する余地もあり、かようなものであれば、権限ある捜査官への連絡に相当の時間を要する等その運用において接見交通権を不当に侵害するものでない限り、法が許容しないものであるとまではいいがたい。これを本件についてみるに、被告甲野がした一般的指定につき、前記一四日付奈良地方裁判所各決定では、「奈良地方検察庁検察官甲野太郎は、同日被疑者につき右代用監獄の長に対し、『捜査のため必要があるので、右の者と、弁護人又は選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する。』旨の接見等に関する指定書の謄本を送付し、いわゆる一般的指定を行つた。」との認定がなされていること、前記認定のとおり、一一日に原告が奈良西警察署を訪れた折、同警察署の留置主任者に対し被疑者乙山との接見を求めたところ、同主任者が、被疑者乙山について検察官から接見に関する一般的指定書が出されており具体的指定書がないと接見させられないことを告げたこと及び前記認定のとおり、右申出に対し、被告甲野は、接見指定要件の有無を問題にせずに原告に対し具体的指定書を奈良地方検察庁に取りに来るように求めたこと等が認められるが、右認定の事実によつては、右一般的指定の内容が、具体的指定書の持参がなければ常に接見等を拒否する趣旨であつたとまでは推認することはできない。かえつて、奈良弁護士会所属の内橋裕和弁護士作成の報告書では、「それまで奈良地検管内では、接見禁止され、所謂一般的指定のなされている被疑者についても、柔軟に対応しており、川下弁護士の場合のように地検まで具体的指定書を取りに行かないと接見させないというような取扱いはあまりありませんでした」とされており、また、小坂井久弁護士作成の実情陳述書によれば、小坂井弁護士は、一六日に被疑者両名と接見しているが、その際被告甲野と電話交渉しているにもかかわらず具体的指定書を取りに来るよう要請されたとの事実は窺えず、これらの証拠に照らし考えると、検察官が必要があると認める場合、即ち接見指定要件がある場合には接見指定をする用意があることを通知したにとどまる趣旨のものであると認められ、かつ、前記認定のように、被告甲野も、具体的な捜査状況によつては弁護人との接見につき日時等を指定する必要が生じる場合もあるとの趣旨で右一般的指定をしたものと認められるから、本件における一般的指定は接見指定要件の有無にかかわらず具体的指定書の持参を要求する趣旨であるとは認められない。したがつて、本件においては、更に進んで、権限のある捜査官の具体的な対応・処分につき、その違法性を検討することになる。なお、捜査機関が接見指定の日時等を指定する際いかなる方法を採るかは、その合理的裁量にゆだねられているものと解すべきであり、弁護人等に対する書面の交付による方法も許されるものというべきであるが、その方法が著しく合理性を欠き、弁護人等と被疑者の迅速かつ円滑な接見交通が害される結果となるようなときには、それは違法なものとして許されないというべきである(最高裁判所平成三年五月一〇日第三小法廷判決・民集四五巻五号九一九頁参照)。
5 本件各処分の違法性及び過失
(一) 一一日の被疑者乙山との接見等の拒否について
前記二認定の事実によれば、原告が、一一日の午前一一時ころ奈良西警察署に接見等のため赴いたときには被疑者乙山は取調べ中であつたものと認められるが、右取調べは午前一一時九分までには終了していた。したがつて、被告甲野は、原告の接見の申出を受けた際、直ちに接見指定要件の有無を調査していれば、すぐにも被疑者乙山の取調べが終了することが容易に判明し、直ちに取調べを終了させて即時に又はその取調べが終了して被疑者乙山が留置場に戻つた時に原告の接見を認めることができた。さらに、原告が被疑者乙山への書類等の授受を求めたときには、同女は既に帰房しており、書類等の授受を制限する何らの必要性もなかつたものといえる。それにもかかわらず、被告甲野は、接見指定要件の有無の調査を何らすることなく、原告に対して執ように具体的指定書を奈良地方検察庁に取りに来るよう、そして、差し入れ物件を同検察庁に持つて来るよう要求するのみで、原告の接見交通権を確保しようとせず、被疑者乙山との接見等を拒否したのであるから、被告甲野の右処分は、著しく合理性を欠くものであり違法であるといわなければならない。そして、捜査機関の遵守すべき注意義務に違反するものとして被告甲野に過失があることも又明らかである。
(二) 一一日の被疑者丙川との接見等の拒否について
前記二認定事実によれば、原告が、一一日の午後四時一五分ころ奈良警察署に接見等のため赴いたときには被疑者丙川は取調べ中であつたものと認められるが、右取調べは午後四時三七分までには終了していた。したがつて、被告甲野は、原告の接見及び書類等の授受の申出を受けた際、直ちに接見指定要件の有無を調査していれば、間もなく被疑者丙川の取調べが終了することが容易に判明し、直ちに取調べを終了させて即時に又はその取調べが終了して被疑者丙川が留置場に戻つた時に原告との接見を認めることができたのである。それにもかかわらず、被告甲野は、前同様、接見指定要件の有無について何ら調査せず、原告に対して執ように具体的指定書を奈良地方検察庁に取りに来るよう、そして、差し入れ物件を同検察庁に持つて来るよう要求するのみで、原告の接見交通権を確保しようとせず、被疑者丙川との接見等を拒否したのであるから、右被告甲野の右処分は、著しく合理性を欠くものであり違法であるといわなければならず、また、捜査機関の遵守すべき注意義務に違反するものとして被告甲野に過失があることも明らかである。
(三) 一五日の被疑者丙川への物の授受の拒否について
前記二認定事実によれば、原告が、一五日に被疑者丙川に接見する際に書物等の差し入れを申し出た時及び接見の後に弁護人選任届用紙の差し入れを申し出た時には、被疑者丙川が現に留置場に在監していたものと認められ、取調べ中である等捜査の中断による支障が顕著な場合ではなかつたことは明らかである。さらには、一一日の被疑者丙川に対する書類等の授受の拒否を取り消すとの奈良地方裁判所の決定も出されており、このことは被告甲野にとつても明らかであつた。したがつて、被告甲野は、原告の右書物等の差し入れの申出を直ちに認めるべきであつたというべきである。それにもかかわらず、裁判所による接見等禁止の一部解除決定を得て来るよう原告に求めて右書類等の授受の申出を拒否するという何ら合理的根拠のない極めて不相当な処分をしたものであり、これが違法であることは言うまでもない。また、捜査機関の遵守すべき注意義務に著しく違反するものとして被告甲野に過失があることも明らかである。
5 国家賠償法上の違法と刑訴法三九条三項違反
被告国は、「捜査官の行為が刑訴法三九条三項に違反するという事実が直ちに国家賠償法一条の違法性を基礎付けるものではなく、右捜査官の判断がその許容範囲を逸脱した場合に初めて違法と評価されるべきものである」と主張する。しかしながら、被告甲野は、接見指定要件の有無を何ら考慮することなく執ように具体的指定書による接見指定権を行使し、しかも、右処分が裁判所により取り消されたにもかかわらず再び原告の被疑者丙川に対する書類等の授受を妨げたのであるから、その違法性は決して低いものではなく、許容範囲を逸脱していることは明らかである。したがつて、被告国の右主張に従つたとしても、国家賠償法上の違法性は否定しがたいものである。
四 責任原因
1 被告国について
被告甲野は、奈良地方検察庁において本件被疑事件の担当検察官として公権力の行使に当たつていた公務員であり、前記のとおり原告の各接見及び物の授受の申出を拒否し、これを妨げた処分は、その職務を行うにつきなされた不法行為と認められるから、被告国は、国家賠償法一条一項により、原告に対し、その被つた損害を賠償すべき責任がある。
2 被告甲野について
公権力の行使に当たる国の公務員である検察官が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を与えた場合には、国家賠償法一条一項の趣旨により、国がその被害者に対し賠償の責に任じ、検察官個人は被害者に対して直接その責を負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五三四頁、最高裁判所昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁参照。)したがつて、検察官である被告甲野個人に対し直接損害賠償請求することは許されないものというべきであり、原告の被告甲野に対する請求はその主張自体において理由がない。
五 損害
前記認定のとおり、原告は、被告甲野の接見等の拒否によつて、数度にわたり被疑者との接見交通権及び物等の授受の権利を違法に侵害されたものであつて、右により相当の精神的苦痛を被つたものと認められる。右損害は、準抗告が認められることによつて完全に慰謝されるものではなく、また、弁護人の地位にある弁護士個人については生じ得ないものということもできない。したがつて、当事者の主張二2(三)の被告の主張は採用できない。
そして、右被侵害権利が憲法に由来する重要なものであること、原告が三回にわたる準抗告の手間を要したこと、幾度かの奈良警察署、奈良西警察署、奈良地方裁判所への行き来、交通費の出費を余儀なくされたこと、原告の準抗告の申立てを認める決定が出たにもかかわらず再度原告の書類等の授受の権利の侵害が行われたこと及びその他諸般の事情などからすると、原告の精神的苦痛を慰謝するのには金三〇万円が相当であると認められる。
六 よつて、原告の被告国に対する国家賠償法一条一項に基づく請求は金三〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和六〇年一〇月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告の被告国に対するその余の請求及び被告甲野に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用し、仮執行宣言の申立てについては、その必要がないものと認めこれを却下し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷種臣 裁判官 大門 匡 裁判官 小倉哲浩)
《当事者》
原告 川下 清
右訴訟代理人弁護士 <略>
被告 国
右代表者法務大臣 田原 隆
右指定代理人 石田裕一 <ほか一名>
被告 甲野太郎